2017.4.17
人のぬくもりが沁みて来る、お薦めの作品に出会いました。実話をもとに創られたこの作品は、やさしさが画面から溢れ出し絆の強さがどんな困難も乗り越え奇跡を生むことを教えてくれます。そして母性の強さが支える深い愛を、わたしたちは目の当たりにします。涙が止まらない映画は、久しぶりにこころの汚れを洗い流し優しい気持ちにしてくれました。今年度のアカデミー賞にもノミネートされた作品は、間違いなく期待を裏切りません。こんな事が本当にあるのかという驚きは、ひとが持つこころの優しさと強さが奇跡を起すということを証明してくれます。
25年間迷子だった青年の自分探しの旅は、主人公サルーの少年時代と青年時代を二部構成的に創られた作品。前半は5歳の子ども目線で画面構成され、小さなこころの中に溢れ出る不安を見事に描き観る側の胸を締め付けます。また後半の青年時代は手に入れた安息の中、ず~っと押さえてきた家族への思いに悩む姿が写し出され、生きていることの意味を問いかけてきます。
この作品の本当の凄さは、単に奇跡を描いたお涙頂戴ではないところ。養子縁組という制度にメスを入れ、親子が抱えるそれぞれの葛藤がきめ細やかに描かれている点です。サルーの義兄弟(養子)マントッシュの存在もこの物語に深みを増していることはご覧いただければ理解できることでしょう。実話の持つリアルなテーマがベースになり真実の愛とはをわたしたちに問いかけてきます。ちょっと視点はちがいますが以前観た“チョコレートドーナツ”という作品を思い出しました。簡単ではない難しいテーマですが、世界が揺らいでいる今だからこそ考えなければいけない問題なのかも知れません。
育ての母親スーを演じたニコール・キッドマンの慈愛に満ちた演技に圧倒されます。彼女は実生活においても養子をふたり育てていると知りました。きっとその事実がスーに重なり、強い母性を見せてくれたのでしょう?熟年期に入りますます輝きを放っています。主人公サルーを演じたデヴ・パテルも繊細な感情を見事に演じ涙を誘います。少年期を演じたサニー・パワール(5歳)くんは、画面に映っているだけで愛しくなる。澄んだ瞳と無垢な演技はたまりません。数千人のオーディションで選ばれた原石と、監督がコメントしています。大好きなルーニ・マーラが恋人ルーシーを演じているところも、個人的には嬉しいキャスティング。地味な役ですがしっかりと脇を固めています。
久しぶりに思いっきり泣ける映画でした。アカデミー賞は掴み損ねたようですが、わたしはの中にはしっかりとメッセージを残してくれました。少年時代の俯瞰や引いた映像の描写はとても美しく印象的。そのかすかに残る心象風景が、Google Earthによるテクノロジー操作で自分探しに繋がった事実と奇跡に拍手です。ラスト近くで義理の母スーがサルーに言った「ず~っと旅をしていたのね」と言う言葉はググッと響きます。伝えきれないほどいっぱいいいところがあるので、自分の目でどうか確かめてください。“ライオン”と言うタイトルの謎も、ラストに解かれます。ぜひ、劇場へ。