

2016.Dec.21
久しぶりに恵比寿の街に・・・。むかし週一でこの街に通ったことが思い出され懐かしい。7年ほど続いた生活だが、思い返せばかれこれ20年も前のこと。相変わらずお洒落な街で、どことなく西洋の香りが漂う。
さて、今回観に来た作品は“SMOKE”。ニューヨーク・ブルックリンの街角に建つ、小さな煙草屋が舞台の人情ドラマ。そこの雇われ主人オーギーと、客のひとり作家のポールを軸に物語は進んでゆく。原作は人気作家のポール・オースターのもので、クリスマスのために書かれた短編である。ニューヨーク・タイムズ紙に載ったこの小説を読み、ウェイン・ワン監督が映画化を熱望しコラボが実現したとのこと。脚本もポール自ら手がけある意味自身を重ねた話のようである・・・。映画は1995年に上映され、その年のキネマ旬報外国映画ベストテンで他のメジャー系作品を押さえて堂々2位に。多くの賞も獲ったこの作品が、21年ぶりにスクリーンに戻って来ました。実はこの情報をかなり前に知り、わたしが今年いちばん観たかった映画なのだ。派手さはないが、ひととひととの繋がりを優しく丁寧に描かれた作品は深くこころに染み渡る。ポスターのシーンがラストにモノトーンで映し出され、いっそうこの作品のテーマがはっきりと浮かび上がる。人生は決して平坦な道はなく、人は皆言葉では言い尽くせないほど多くの苦難を背負って生きている。それでも平等に朝はやって来て、そしてまた一日が始まる。押しつけがましい優しさはそこになく、さりげなく不器用な思いやりが作品に溢れ優しい気持ちになれる。年末一押しのクリスマスプレゼントです。ぜひ大切なひとと観に行ってください。
煙草屋の主人オーギーを演じたハーヴェイ・カイテル、今年特別上映されたロカルノ国際映画祭で生涯貢献賞を贈られたとのこと。カイテルとはじめて出会ったのは“ピアノ・レッスン”作品も素晴らしかったが、このときから彼の演技に取り憑かれているわたし。いつも癖の強い役柄が多く存在感抜群だが、今回も文句なしの演技です。もうひとり作家ポールを演じたウィリアム・ハート。こちらもがっぷり四つの名演で観るものの涙を誘う。物語はこの二人を中心に関わる人々の秘密やトラブルにスポットをあて、最後のクライマックスへと続く。タイトルの“SMOKE”は煙だが、煙草屋が舞台と言ったそんな単純なお話ではない。いまでは無駄なものの代表、煙草。「煙のように儚くても、人生に必要じゃないものなどない」とそんなメッセージが作品には込められているようです。煙草は大の苦手なわたしですが、この作品に関してはとても大切なアイテムであることは間違いありません。ラスト近くでオーギーが煙草を燻らせ語る嘘とも本当とも言えない話を、優しいまなざしで聞くポールの瞳がとても綺麗でした。この作品通して感じたのは登場人物たちの、真っ直ぐに相手を見て話す姿の大切さ。見習わなくてはいけませせん。音楽もとてもいい演出につかわれ、アメリカの香りをジュワッと伝えてくれます。
※制作当初オーギー役に予定されていたのが、シンガーソングライター(俳優)のトム・ウェイツ。色々あって降板したが、ラストシーンのバックに流れる「Innocent when you dream」彼の歌声は最高にしびれます。