2016.Nov.30
“この世界の片隅に”を観た。原作はこうの史代の漫画作品で、監督の片渕須直がアニメ化を企画し許諾をえるためこうのさんに熱い手紙をおくり実現したもの。こうのさんはその時「運命」を感じたと語っています。制作に必要な資金集めにクラウドファンディングを開始し、予想を遥かに超えた金額が集まり、支援者も3374人になったそうです。このような前例はなく、この作品を待ちわびている人たちが多くいることを実証しました。
物語は私が生まれる10年前昭和19年(1994年)に、相手のことも知らぬまま嫁いだ娘(すず)の幼少期からはじまる。戦争をテーマに淡々と話が進み、時間がゆっくりと動いて行く。戦争のアニメと言えば“火垂るの墓”を思い出す。名作に涙した人は数知れないはず・・・。この作品は“火垂るの墓”ほど重くない。戦争という重いテーマにも関わらず、作画同様に柔らかくそして優しく生きる主人公すずの成長していく姿を描き出す。そのゆったり感は戦争中だと言う事さえ忘れさせてしまう。だからこそラストに近づき、空襲や機銃掃射などが描写されはじめるとよりリアルな感覚が襲ってくる。生きている事の大切さ描いている作品は、どんなに過酷な試練に見舞われても人は強く生き前に進んでいくことを教えてくれます。
ここのところ素晴らしい日本のアニメに、こころを奪われっぱなしのわたし。この作品も大切な一本になりました。主人公が絵の上手い少女という設定を、巧みに表現に取り入れた工夫が素晴らしく絵本を読んでいる感覚さえ憶えます。水彩画風の風景描写は、優しさが伝わりこころを温か〜く包んでくれます。ジブリとも新海とも違った人肌のぬくもりを感じる作品です。日本アニメの底深さを改めて誇りに感じます。
さて、ほかにも嬉しいことがいっぱいなのでもう少し・・・。まずはすずの声を演じた“のん”ちゃん。久しぶりの出演(声)の能年玲奈ちゃんが改名しての復帰第一作。おかえりなさい!!待っていました。いろいろあったようですが、ファンはみなあなたの味方です。すずの役はピッタリで、きっと代表作となるでしょう。頑張っていっぱい作品に出てくれる事を望んでいます。もうひとつ嬉しいのは音楽。コトリンゴが歌う「悲しくてやりきれない」。青春真っただ中に聞いていました。フォーク・クルセイダーズの名曲♪白い雲はながれながれ〜て♫と、流れ始めた瞬間わたしはタイムスリップ・・・。そう、すずと同じ19歳の頃になっていました。
※映画館には70〜80代の方も多く、時折すすり泣く声が耳に聴こえ「時代を乗り越えてきた先輩たちに、敬意と感謝」という気持に強くなりました。
P.S. そして北風小僧さん、“アリガトウ”
●フォーク・クルセイダーズ「イムジン河」/当時発禁になったもうひとつの名曲です。祖国を思うこころの歌に涙が溢れます。