

2016.July.19
久しぶりになんとも言えない重たい作品を観ました。こんなに不愉快にさせる映画はめったに出会えません。とても気になるテーマだったので、こころの準備を整え鑑賞に望みました。最近と言うか近頃ニュースで報道される凶悪事件の数々。どれも虫酸が走る事件ばかり。軽視される命の尊さ。殺人がこんなにも簡単に行われてしまう世の中、なにかおかしくないでしょうか?
この作品はまさに、そこにスポットをあてた社会派ドラマです。殺人事件に限らず多くの事件は、かならず被害者と加害者が存在するのだが、裁判員制度が出来てからわたしたちもひとを裁かなくてはいけなくなった今日。はたしてその時、自分の意志でひとの命の有無などを決定できるものだろうか?そんなことも含め、いろいろなことを考えさせられる作品である。作品は加害者側の目線で作られたストーリーである。ただ最後まで理解には辿り着かない・・・。理解など到底出来る訳も無く、またしてはいけない凶悪犯罪なのである。見終わったあと、実に不愉快な気持が湧いて来る。言いようもない憤りがふつふつと沸き上がる。もう映画と言う枠からはみ出し、はらってもはらってもはらえないモヤモヤ感と喪失感で一杯になる。やられた感じである。最近観た“64”も重厚な作品だったが、“葛城事件"はリアル感が半端なく胸を抉られる。とても日常的で、どこにでもいるような普通の家族がそこにいる。我が家と比較してしまう自分がそこにいて、なんだか怖くなる。何がひとを狂わせ、こんなことになってしまうのか?みんな悪いし、みんな悪くない。どっかでボタンをひとつ掛け違えてしまった、そんな家族の話から目が離せない。だれにでもおこる可能性があると思わせる、強烈なボディブローである。
出演者がみな素晴らしい。何と言っても父親・葛城清を演じた三浦友和には脱帽です。デビュー当時の爽やか好青年が時を経て、素晴らしい俳優さんになりました。見事としか言葉が見つからないほどの存在感で、粗野で傲慢でエゴイストの嫌な父親を演じています。「おれが何をした。おれだって被害者なんだ!!」と怒号をあげるシーンはもとより、どの場面でも見る側に不快感を与える演技は言葉さえ失う。事件(無差別殺傷)を起こす次男の稔を演じた若葉竜也くんも、新人とは思えない繊細な表現をし弱くてダメな人間を演じています。彼はオーディションで見事、この役を射止めました。脇を固める、南果歩、新井浩文、田中麗奈さんなど、普通なようで普通じゃないひとをしっかりと演じ、人間はみな弱い生きものということをわたしたちに突きつけ家族は崩壊して行きます。他人事には思えないこの映画、観た方がいいのか、見ない方がいいのか正直解りません。ただ、犯罪に対する距離を縮める一石を投じた見事な秀作であることは間違いありません。監督・脚本を手がけた赤堀雅秋氏はこれからも注目です。
P.S. そばをズルズルとすする音が汚く、耳から離れません。夢に出てきそうです。