2016.May.09
ひさびさに演技力の凄さに圧倒されました。鑑賞した作品は“さざなみ”。作品は結婚45周年を迎えた、ある老夫婦に突然訪れた一通の手紙からはじまる。ほぼ主人公2人が中心に物語が進む。決して裕福ではないが幸せに満ちた晩年を過ごす夫婦におこる出来事である。ひとしずく(手紙)がもたらす波紋が、静かにそして確実に広がって行くこころのゆらめきが実に繊細に紡ぎ出される。主演はこの作品でベルリン国際映画祭銀熊賞をWで受賞したふたり。婦人マーサを演じた、シャーロット・ランプリングそして夫を演じたトム・コートネイ。称賛の言葉を見失うほどの圧巻の演技で、“愛とは?”と意味を問われているようで考えさせられる。どんなに幸せでも、一瞬の出来事からもろく壊れ始める“愛”。でもそれが“愛”。シャーロット・ランプリングはデビュー当時から異彩を放ってきた女優さんだが、この作品は円熟した彼女のきっと代表作となるに違いありません。目力は言葉を必要としないことがはっきり解る、そんな演技でした。まさに二人が演じた老夫婦は、年は重ねてもまぎれもなくひとりの男と女を証明しています。男はおとこ、女はおんな。はっきりと違う男女の感覚が浮き彫りになり怖い。静かな風景にとけ込むように暮らし、平凡を絵に書いたような幸せに満ちた老夫婦。そんなふたりのこころが、まさに“さざなみ”のようにじわじわと波打ち、どこまでも静かに広がって行く。幸せを感じる時間を手に入れるには、もの凄いエネルギーが必要なのかも知れませんが、壊れるのは一瞬。たとえそれが終わっていることであれ・・・。真実の言葉は時に残酷で、発した瞬間にそれまでに積み上げた人生を失ってしまう。そんなことがすごく見近にあると、肝に命じておきましょうみなさん。