2015.Dec.22
山田洋次監督自ら、生涯で一番大事な作品をと語っていた“母と暮せば”を鑑賞。監督渾身の一作に込められた「平和」というメッセージを強く感じその大切さを改めて考えさせられました。山田監督と言えば”寅さん”。そのライフワークが終わり作品の数は減ったようにも感じられますが、作品を発表される度に変わらぬ“人の優しさ”を問う作品を観せてくれる。その優しさに触れる度、忘れかけていた気持がいつも甦る。
戦後70年を期にこの映画は創るべくして創ったとも語る山田監督。近年立て続けに戦争をテーマにした作品が続いている。例えば“母ベえ”“小さいおうち”、そして小津安二郎監督の“東京物語”のリメイクなど・・・。どれも心を打つ作品ばかり。大好きなものばかりです。監督がなにか今の平和の本当の意味を私たちに考えさせようと、まるで使命感のように創られているとさえ感じてします。“母と暮せば”は、井上ひさしさんの小説「父と暮らせば」の続編ということになっている。生前、井上ひさし氏が“母と暮せば”という題で長崎を舞台に作りたいと言っていたことを知り、山田監督が是非自分にとご家族に了承を得て脚本を書き上げたと聞く。いろいろな思いを込め完成したこの作品には、「生涯で一番大事な作品」と言わしめるだけの重いメッセージが込められているに違いない。少なくとも私は強くそれを感じ、幸せの本当の意味をこどもたちと一緒に考える時間を持とうと思いました。
さて、“母と暮せば”ですが、主演に吉永小百合さん(福原伸子)と息子役に嵐の二宮和也(福原浩二)をキャスティング。監督がこの2人しか思い浮かばないと選び、脇には“小さいおうち”で世界的評価を得た黒木華、そして浅野忠信と演技には折り紙がつく俳優陣が勢揃い。それぞれにその人物になりきった素晴らしい演技で、作品のテーマを本当に強く伝えてくれました。小百合さんの(福原伸子)しっとりとした女像の中に隠れた強さと弱さ、そして二宮くん(浩二)の母や恋人を残し逝ってしまった悔いや未練といった感情などなど。お二人ともきめ細かく演じ、涙を誘います。ラストの方で小百合さんの母親像がただ奇麗ごとで創られてなく、こころを抉るセリフがとても人間味を感じ涙が溢れました。このあたりも監督の拘りが感じられ、人(母)とはそう言う生きものなのだと言われた気がします。ぜひ、みなさんも鑑賞して頂けると嬉しく思います。どんなことを感じたか良かったら教えてください。最後に脇役で福原伸子の伯父役をやった加藤健一さんですが、実に存在感のある演技で戦後の暗い時代の中で逞しく生きる姿が良く出ていて印象に残りました。ちょい悪オヤジだが、元気をくれる何故か憎めないそんなおじさんでした。
全体に薄暗い(夕景)感じで創られた作品ですが、なにか哀愁をそそりゆっくりと動く時間の流れに身を委ねてしまうそんな映画でした。
P.S. 冒頭のB29の中での操縦士たちのさめた会話が、たんたんとしていて妙に怖い。そして大学の窓からみえる空を横切るその飛行機雲。次の瞬間、閃光が画面を包み溶けて行くインク瓶が・・・。戦争はただ人を死に追いやるだけでなく、残された人にも大きな荷物を背負わす大罪です。世界から戦争が無くなることを心から願います。
※母との思い出が薄い自分は、ふたりがちょっと羨ましかったです。(不謹慎でゴメンナサイ)