2015.Oct.19
戦争をテーマのした、今年いちばん観たかった映画“野火”を見に大森へ・・・。何十年ぶりだろう大森の地をおとずれたのは?終戦記念日の夏を迎えた頃、続けて戦争映画を観たわたしだが、一本だけこぼしていたのがこの作品“野火”。塚本晋也監督による、渾身の一作である。20数年もの歳月をかけ完成した作品はわたしたち、いや私のこころに深い傷跡(トラウマ)を残し言葉を失なわせてしまいました。この記述を書くのにまるまる一日、悪霊を振り払うかの時間を費やしました。この作品は映画という枠を超えたものがあり、そのメッセージに私たちは答えを求められているような気がします。いままでも多くの戦争映画を見て来たが、どんなにリアルな表現で描かれた名作もこの作品を観たら、なんとオブラートに包まれた奇麗ごとだったのだろうと打ちのめされる。塚本晋也監督は、きっと覚悟を決めて挑んだに違いない。だから、見る側も覚悟を決め、観なければいけないのだ。
戦争はなにも生み出さないと、思い知らされる。ただただ失望感に襲われ常軌を逸してゆく人間のありのままの姿がここに映し出されている。リアルな戦闘シーンとは相反する自然の美しさが対比され、より効果的に残酷さが強調され恐ろしい。生きるということへの極限までに追いつめられた人の行動がこころを抉ります。現代人は観なくてはいけないと思う反面、見せてはいけないかも・・・と思ってしまう。少なくともある程度、年齢を重ねるまでは・・・。
この作品は10年くらい前に、一度動いたらしいが結局頓挫してしまったと聞く。紆余曲折を経ての、この作品はまさに塚本晋也監督のすべてを注いだ作品に違いない。塚本監督は自ら主演(田村役)をし、この作品に血を通わせ人間の愚かさを表現しています。リリー・フランキー(安田役)さんも相変わらずの存在感を出し、作品に厚みを加えております。しかしよくここまで、追い込んだ作品(戦争)に辿り着いたものです。
それでも本当の戦争は、もっともっと恐ろしいのだろう。のど元にナイフを突きつけられたそんな冷たい感覚が残ってはいるが、これは生きることへの意味を考える貴重な時間を与えられたのかも知れない。ご覧になった方たちはどんな感想をお持ちですか?劇中、永松(森優作)が田村との会話で発した「俺がお前を殺して食うかッ?お前が俺を殺して食うかッ?え、どっちだ!?」というセリフが耳から離れません。かれもまたインパクトのある演技をみせてくれました。ここまで究極の戦争映画は、そうそうもう出てこないかも知れません。無理には勧めませんが、価値は大の作品です。