2015.July.02
今日もしとしと梅雨の空。前々回銀座に足を運び、満席で観られなかった映画を観に・・・。作品は河瀬直美監督の“あん”。個人的な印象だが、今度の作品は今まで観たどの作品とも微妙に違う感覚を感じたわたし。とは言え河瀬監督作品のすべてを見ている訳ではないので、勝手な思い込みかも知れない。“萠の朱雀”“沙羅双樹”殯の森”のどれとも違う何かが、何なのかはじっくり確かめてみようと思います。
河瀬監督の作品は、海外(特にヨーロッパ)では評価が高いののだが日本では好き嫌いがはっきり別れているようだ・・・。わたしは好きな監督さんだが作風が独特で、深層心理に深く入っていくのがメンドクサイ人には好まれないでしょう。そう、ある意味「カルマ的」感性に引かれるひとたちははまってしまうのである。理屈で捕らえず、感性で捕らえると言えば語弊があるかも知れませんが、そんなひとたちはきっと大好きでしょう。言い方が上手くなくてすみません。いままでもそうでしたが、この映画も自然描写(森羅万象)がじつに巧みに使われ物語に深みを与えています。光や影、音や匂い、日常の中で溢れている自然の美しさ儚さを、人間の営みに重ね合わせジュワ〜ッと心に沁みこまさせてくる。わたしはその辺が大好きです。あまり説明的にならず、こちらで勝手に思いを巡らすみたいな、そんな演出が特徴ではないでしょうか?賛否が別れるのはここで、映画の本道大衆文化を求めるひとにはちょっと辛いかも知れません。でも、作り手側が大衆の目ばかり気にして創るものばかりでは、たぶん新しいものは生まれないとわたしは思っています。
さて、“あん”はタイトルからしていままでとは違う感じがしませんか?とてもシンプルな響きです。と思ってみたら、やっぱり河瀬ワールドでいっぱい。監督はいままでテーマの軸に一貫して「生と死」を取り上げ、その時々で違うかたちのひととの関わりを紡いでみせます。今回は病(ハンセン病)をかかえて、ひっそりと生きてきた(生きざるを得なかった)老婦人の小さな願いをテーマに、こころのあり方を見る側に投げかけてきます。この病はいまだに誤解され差別を生み、多くのひとを苦しめています。最近ではあまり報道でも取り上げられなくなり忘れられているそんな有様。なぜ、いまそこにテーマをおき、監督が何を伝えたかったのかは解りませんが、病気そのものの苦しみ以上に精神的苦しみが、いまだ終わっていないのは確かなようです。主演の樹木希林さんは凄いのひとこと。いつもの監督の演出なのですが、実に自然体で主人公になっています。演じていません。ドキュメンタリーのように・・・。逆に違和感を感じるひとも多いかも知れません。孫の内田伽羅がいっしょに出てますが、まっさらな木綿みたいな感じが印象的でした。永瀬正敏さんも渋くなり、俳優としての年輪を感じさせてくれました。そう言えばKYON-KYONの旦那様ですよね・・・。
ちょっと重たいですが、ひとの心理を見直す良い機会だと思います。面倒だと思うひとは、やめましょう。
P.S. ハンセン病(むかしはライ病と呼ばれていた)を織り込んだ映画が何本か思い出されます。日本映画だと“砂の器”。洋画だと“ブラザーサン、シスタームーン”。どちらも素晴らしい作品です。フランコ・ゼフィレッリ監督の“ブラザーサン、シスタームーン”はわたしの中ではベスト3に入る作品。ぜひ機会があったら観てください。こころが清らかになります。(ただし自分が汚れていると思うひとだけ?)