2015.May.18
201本目のスタートに選んだのは、“あの日の声を探して”。上映中の新しい映画では、一番見たかった作品です。多くのテーマを含んだ反戦映画だが、いちばん怖いのは戦争はひとのこころをも変えてしまうという事実が描かれているところ。これまで幾度となく戦争をテーマにした作品を見て来ました。最近観た“アメリカン・スナイパー”もそのひとつで、こころに残る一本になったばかり。今回の作品も戦争が多くの命を奪うだけでなく、そのもたらす恐怖が人間の心を壊し浸食してゆくさまを実に見事に描いています。作品は3人の主人公たちが戦争を背景に変わっていく様を、時を挟んでリアルに表現し圧倒される。ひとりの少年(9歳)の悲しい現実を訴えたものかと思っていたが、そこにはもっと違う戦争の怖さがリンクしていて、ラストは衝撃の幕切れです。見事な脚本で、激しく心を揺さぶられる一作となりました。監督はミシェル・アザナヴィシウス(アーティスト/アカデミー賞受賞)というひとで、わたしはじめて作品に触れました。きめ細やかな演出と描写は、まるでその場にいるようなそんな気分に・・・。撮影はグルジアで行われたようで、手持ちカメラを使った映像はリアルで臨場感が溢れ見る側を圧倒します。戦争を背景に3人の違う立場が交差し、それでも必死に生きようとする姿にはいろいろなことを考えさせられます。戦争に追いつめられ、言葉を失った少年ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)。EUで報道の仕事に携わり、現実とのギャップに苦悩し使命感だけが支えのキャロル(ベレニス・ベジョ)。そして平凡な生活から一転し戦争に駆り出され、正気を失っていく青年コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)。
3人がそれぞれに流した涙の意味は全く違っているのだが、とても深く重たい一粒でした。舞台となっているのは、いまも報道が伝わるチェチェン。この作品はいまこの瞬間におきている、紛れもない事実が描かれた真実の話。これは観なくてはいけない映画のひとつではないでしょうか。
P.S. ハジを演じたアブドゥル・カリム・ママツイエフやコーリャを演じたマキシム・エメリヤノフ、そしてハジの姉ライッサを演じたズクラ・ドゥイシュビリはオーディションで選ばれたひとたち。マキシム・エメリヤノフは俳優さんだが、姉弟の2人はこれが初仕事。本当に素晴らしい演技でした。マキシム・エメリヤノフは特に印象に残りさらなる飛躍を期待します。少なくともわたしたちより、リアルに戦争を感じ取っているからでしょう?わたしたちもただ感動していては駄目かも知れません・・・。