2015.Jan.26
大好きなティム・バートン監督の最新作“BIG EYES"を鑑賞。いつも独自の映像美とちょっとブラックなユーモア、そして愛をさりげなく描くティム監督。今回の作品は60年代のアメリカで起きた実話がもと。世界を驚愕せたポップアート界のある事件がモチーフです。ポップアート界の巨人アンディ・ウォホールが絶賛したアーティストが実は???という話。
バートン監督の作品はほとんど観ているのだが、今回の作品はいつになく正統。こんな言い方をすると誤解されるのでフォローしますが、いつもの大胆でお茶目なファンタジーワールドは影を潜め真面目にこの題材に取り組んでいるという意味です。ティムのブラックな世界感を期待すると、ちょっと肩すかしかも知れません。アート界を驚かせたゴースト・ペインター事件を実に丁寧に再現し、いままでの独特で大胆な演出はすこし押さえているように見えます。きっとこの事件自体がかなりショキングな内容なので、過度の演出はさけ主人公たちの内面性を演技に求めたのだろう。そしてアート界の神秘性や不条理の世界にメスを入れ正直に表現したかったのかもしれない。監督がこの事件で受けた印象を大切にし・・・。
さて主人公の描く作品の絵だが、子どもをモチーフにした目を大きくディフォルメしたもので、その大きな瞳はひとのこころを見透かしているような感じさえします。そして何かをうったいかけてくる憂いに満ちた表情は、ずばりティム・バートン監督の世界感と交差しています。だからあえて過剰な演出をさけ素材を大切にしたのかも・・・わたしだけの勝手な解釈ですが。
それでも、要所要所でティム監督の味というか、美的感覚、特にメイクにはそれが出ていて頷けました。主人公エイミーが自身のプライドと生活との板挟みで葛藤し、見るものすべてのひとの顔が描く絵の顔に観えてくる幻覚はまさにティムワールド。あとはやはり鮮やかな色彩の使い方。これはティムならではの配色。一発逆転の終わりもなく、最後はその後の主人公2人のいまが字幕で紹介されジ・エンド。ちょっとものたりなさは残りますが、やはり
「事実は小説より奇なり」ということでしょう。そう言えば、日本でも昨年にたようなゴーストライター事件がありましたネ。スケールは違いますが???
主人公マーガレット・キーンを演じたエイミー・アダムスは古典的美人の王道を行く女優さんでとても奇麗で堅実な演技でした。もうひとりの主役夫のウォルターを演じたクリストフ・ヴァルツは、とても身勝手で嫌な男をムカツクほど見事に演じてくれました。圧巻だったのは裁判での、一人芝居。ここは見応え充分。タランティーノ監督と組んで創られた“イングロリアス・バスターズ”での残忍な将校役を演じ、賞を総なめにしたのは2009年のこと。この人は俳優というより、アクターという名称が似合います。これからも灰汁(味)のある演技を期待したい。
P.S. 脇役でアート界の重鎮を演じていたテレンス・スタンプ。重厚感のある存在感に拍手です。この人も先人のアクターと呼べるひと。巨匠ウィリアム・ワイラー監督の“コレクター(1965年)”は名作。あのドキドキ感はいまもわたしの胸に焼き付いています。
Shoji UEKUSA