2014. May. 29
2本目は“ハンナ・アーレント”。こちらも数多くの賞を手にした、重厚な作品。“偽りなき者”と同様主人公の演技力に圧倒されました。ハンナを演じた、バルバラ・スコヴァの存在感に目を奪われます。イギリスの元首相サッチャーさんを「鉄の女」と敬称しますが、ハンナもまたこれに匹敵する人物。第二次世界大戦当時のナチスが行った大虐殺に関わった、人物(アイヒマン)の裁判を実写で使うことでよりリアリティを追求したこの作品。物語はその裁判を傍聴し、新聞に記事を載せたハンナ(哲学者)というひとりの人物の生きざまにスポットをあて進んで行く。世の中のすべてを敵にしてしまったこの新聞記事。そこからはじまる苦悩の日々。こころの裏側にある“弱さを越えて来たゆえの強さ”がこの作品から伝わって来ます。深い探究心に裏打ちされた、男にはない強さがそこにはあり引かれます。“偽りなき者”との2本立ては、共通するテーマ“真実と尊厳”。こちらの実話作品はややテーマが大きく、過去の歴史におきたひとの過ちと真っ向勝負の作品になっています。何が本当の悪なのかを彼女は追求し、その結果自身が悪の象徴として世間にさらされます。そんな彼女を支えたのは、飽くなき真実への探究心と夫や友人たちの愛。そして大切な友人たちも、同時に失う。真実とは何かなどと考えても、きっと答えを見つけるのは難しい。だから彼女のような人が、必要な時代かもしれない。奇麗ごとになってしまうであろう“罪を憎んで、人を恨まず”というテーマがここにある。ただはっきり言えることは、ひとは弱く罪深い生きものだと言うこと。ラスト近くの大学での、講義シーンは圧巻である。魂のスピーチに、ここだけでも見る価値は充分である。そして、同じシーンでの友人から冷たいことばもまた、深くこころに残る。本当の罪とは、真実から目を背けてしまうわたしたちかも知れません。実在の人物と歴史的背景に裏打ちされた、人間たちの過ちを尽きつけるこの作品は、観なければいけないものかも知れません。
UEKUSA Shoji