2014. Mar. 10
本年度のオスカーを手にした、話題の作品“それでも夜は明ける”を鑑賞。この映画は第86回アカデミー賞作品賞を含む、3部門を受賞したいま一番観たかった映画。前にいちど言ったことがある映画の役割。娯楽にとんだ楽しいものや、夢のような空想を描いたものや、今回のような実話に基づいたこころに訴えてくるシリアスな作品など・・・。それらすべてが、わたしたちの感性を刺激しこころを豊かにしてくれる。どのような作品も多くの人の手をかり、そして時間をかけ創りあげたもの。だからわたしは、けっしていい加減な気持ちで鑑賞せず、出来の善し悪しはあれど必ず良い部分を見つけ持ち帰る。好きなものを純粋に楽しむのである。映画は宝箱のような総合芸術。
今回の映画が実話をもとに作られたものと聞くと、その重いテーマに託された「人間の尊厳」をあらためて考えさせられる。監督は“恐れ知らずの映画監督”と称せられるスティーブ・マックィーン。かの名優と同姓同名の監督は、作品を発表する度世界を挑発し続けていると聞く・・・。そんな監督が驚愕のタブーに挑んだ、胸をえぐる作品に圧倒されことばを失う。人間はどこまで残酷になれるのか、ほんとうにどこまで残酷なのいかと考えさせられる。昔の話とはいえ、今も残る人種差別の問題。人がものとして扱われ、当たり前のように受け入れざるを得なかった時代。悲しい場面や悔しい場面がたくさんあるが、何故か涙がでてこない。それより悔しさがまさり、憤りが胸の奥にふつふつを沸き上がり苦しさにいら立つ有様。こんなことがあっていいのか?打ちのめされ、自分の生活の緩さを思い知らされる。監督の作品は、はじめてだが他の作品も是非観てみたい。それにしても俳優たちの演技力には驚かされる。主役(ソロモン&プラット)のキウェテル・イジョフォーは、“キンキーブーツ”で演じたゲイ役以来の大ファン。そう言えばあの映画も実話でした。あの役のインパクトが強く、180度違う今回の演技に底知れぬ凄さを感じました。個人的にはキンキの役が好きです。敵役を演じたマイケル・ファスベンダーの病的エゴイストの凄さも圧巻です。カンパーバッチやブラピなど、みな重みのある素晴らしい演技に拍手である。ブラピは今回製作にも関わっている。あと何といっても、今回新人とは思えぬ存在感でベテランたちを唸らせた、パッツィー役のルピタ・ニョンゴ。アカデミー助演女優賞の名にふさわしい名演技でした。アカデミー賞作品だから観るのではなく、この作品は観なくてはいけない作品のひとつに違いありません。ただちょっと救われない気持ちが残るのは事実なので、ご承知の上でご鑑賞を・・・。shoji植草