2011.Jul.05
日本をもう一度好きになる映画に出会った。山形の美しい風景が優しく物語りを包み込む。監督は藤沢作品「山桜」につづき二作品めの篠原哲雄。主演も同じく東山紀之(少年隊)。藤沢周平原作のこの映画、ここ最近見たアメリカ映画の正反対の表現(アナログ)をとても大切にしている。それもしっかりと地に足がつき心に響く。まさに“これぞ日本映画”。藤沢作品はこれまでも多く映画化され、どれもこころに残る素晴らしい作品として記憶に新しい。今回も見事に映像化し、満足させてくれる。日本人の耐え忍ぶ心の強さ、そして美しさ、時は違えど“東日本大震災”の被災地の方たちの強さを思わせる。日本の歴史や文化が時代を超え、薄くはなったが脈々と引き継がれていることを実感する。今回の作品には、今までと違い本当の“悪”が出てこない。現代に通ずる社会の仕組みが、さりげなくもまた皮肉をこめ描かれ、観るものに正義とはを問いかける。それにしても背景の自然が奇麗だ。緑のひとつひとつが眩しく、主人公たちのこころの葛藤を包み込んでくれる。音響も時代をよく表現し、静かだが胸にしみこむ。草を揺らす風音、軒先の雨だれ音、小川のせせらぎ音、襖の開閉音。いま(現代)、こんなにも音を感じる時がどれほどあるのだろう。それらを知っただけでも満足である。登場人物(俳優さんたち)も慎ましくも誇りと優しさを持ち、みなそれぞれに魅力的である。数日間の話だが、こんなにゆっくりとそして永く時間は動いているのだと改めて思った。忙しことを言い訳にして、見失っているものがいっぱいあることを、この映画は教えてくれる。音楽も風景と重なり素晴らしい効果で耳に残る。
取り立てて泣かせる演出はなくたんたんと進む物語。だが、クライマックスの決闘シーン後の別れは、言葉はなくとも胸がつまり涙がこぼれてしまう。みなさん、静かな優しさに触れたくなったらぜひ劇場へ・・・。