2011.May.20
ナタリー・ポートマンが今年度主演女優のオスカーを手にした作品である。彼女ももう30歳。11歳で鮮烈なデビューを果たした「レオン」は、いまだ記憶に新しい。あれから19年が過ぎ、しっかり大女優への道を歩んで来たそんな結果のこの作品。子役でスタートした俳優たちは、いろんな意味でスキャンダラスな人生をおくることが多い。だが彼女はしっかりと地に足をつけ自身を貫き、仕事さえセーブし名門ハーバード大学で心理学を学んだという。自分のビジョンをしっかり持っていることは、やはり大女優の証だろう。先輩のジュディ・フォスターにどこか共通するものを感じてしまう。
さて映画だが、ややホラー仕立ての色が濃く、きっと好き嫌いがはっきりと分かれてしまうに違いない。映画公開時にクラシックバレー界から、ひどい悪評で叩かれたらしい。ストイックな世界を表現しているので、かなりの誇張やスキャンダラスな演出もある。そこいらが芸術の世界の方たちのお気に召さなかったのかも・・・?!
この作品で見事オスカーを手にしたポートマンだが、やはり評価に値する見事な演技は間違いない。彼女のために生まれた作品と言っても過言ではないだろう。主人公の内面にある焦り、拘りや葛藤など、複雑かつ繊細に表現し、その変貌が美しい分なお怖い。堕ちて行く先輩ダンサー役のウィノナ・ライダーや母を演じた懐かしいバーバラ・ハーシーなど、脇を固めた俳優さんたちもしっかりとリアルな存在感を出している。監督は昨年見た「レスラー」で、あのミッキー・ロークを復活させたダーレン・アロノフスキー。「レスラー」は大好きな映画の一本。クラシックバレー、イコール芸術。かたやプロレス、イコールエンタテイメント。両極のような2つだが、今回の映画を観ると、そこで生きる人たちのいちずなまでの拘りはいっしょである。ポートマンの肉体改造に相当な時間を裂いたことは、無駄のないその体の線を観れば息を呑む。やはりそんな所も「レスラー」と共通している。変形した足の指先の関節、新品のトゥーシューズの底に傷を入れるといった細かな描写は、その世界の厳しさが素人にも伝わるシーンのひとつだ。はじめに好き嫌いははっきり分かれると言ったが、ストイックなその世界感はわたしを十分堪能させてくれました。完璧を求めるあまり大切なものを引き換えに失う。主人公が踊る黒鳥のシーンは、背中が寒くなるほど官能的で美しくそして痛々しい。白と黒は、表裏一体。ラストシーンの“パーフェクト”の言葉がこころに刻まれ映画館を後にした。