2010.Dec.20
村上春樹氏が1987年に発表した、同名小説を映画化した作品である。上下430万部を売り上げたベストセラーの「ノルウェイの森」。その著者村上氏と言えば、いま世界中で読まれている日本人作家の代表。ノーベル・文学賞にも名が上がるほど人気、実力を持ち合わせた人気作家のひとり。今年出した「1Q84」もあっという間にベストセラーになり勢いは衰えを知らない。
そんな作品に挑んだのは、1993年「青いパパイヤの香り」で鮮烈なデビューをし数々の映画賞に輝いたヴェトナム生まれの“トラン・アン・ユン”監督。日本人の監督でなく、この映画が撮られたのも大変興味が沸く。映画化の経緯で、著者との間でいろいろな意見が交わされ、原作にはないセリフなどが村上氏から加えられたと聞く。
映画と原作を比較するのは、わたしはナンセンスと思っているので映画「ノルウェイの森」に浸って鑑賞をした。ユン監督の美しい映像描写には定評がある。自然の音や色、光、そして時間の流れが巧みに物語と絡み、静かに染みて来る作品だ。時代描写も丁寧で懐かしい。重たいテーマだが、美しい映像がそれを優しく包み込む。青い時の言葉では表現できない、繊細な感情がとても良く描かれていた。ビートルズの曲がまた、何とも言えぬ雰囲気を創り上げ哀しい。
ワタナベを演じた松山ケンイチ、直子を演じた菊地凛子ともに難しい役を好演している。正直“直子”のキャスティングははじめ違和感を感じたが、進むにつれそれは自然と消えていた。ふたりに拍手!また、脇を固めた女優人の3人も、それぞれの人物像にしっかり色を添え魅力的である。三者三様のナイーブなこころの動きをとても上手く表現している。
映画にはサプライズで、物語と同じ青春時代を生きた著名な人たちがちょこっと顔をだしているが、これはご愛嬌。見終わったあと、こんなにも人を愛執することができるのかと考えさせられる。良くも悪くも昔が、懐かしく愛しい。
※ジャケット風のプログラムが懐かしさを演出しカット良い。映画同様、こだわりを感じます。