
2010.Jul.14
久しぶりに硬派で骨太な時代劇に出会えた気がする。藤沢周平の原作は2002年の「たそがれ清兵衛」以来、今年の「花のあと」まで何度も映画かされてきた。山田洋次監督をはじめ、多くの監督が手がけた素晴しい作品が多い。いままでの作品は、どちらかと言えば少々地味な下級武士の話や、あまり光のあたらない武家社会の話など、時代を読み解く突っ込んだものが多かった。また、時代背景やしきたりなどを細かく描写し、歴史の重みを丁寧に描いて見せてくれた。それらがまた、昔のチャンバラ映画とはちがったリアリティを感じさせ、これぞ日本映画という質の高い作品生んだように思う。
今回の「必死剣鳥刺し」を観て、今までにない藤沢文学の奥深い世界を見せられた気がする。話題になっているラストの殺陣のシーンも、うわさ通りの素晴しい出来で、刀の怖さが見る側を圧倒する。一太刀一太刀に魂がこもり、息をつかせぬ立回りになっている。もちろんそれ以外の部分も、藤沢文学の不条理な武家社会を丹念に描き見事である。まるで今の日本(政界)を皮肉っているがごとく・・・。だめな主君を持つと大変なのは、いつの時代も同じである。藤沢文学には欠かせない女性像(里尾/池脇千鶴)も今回はいままでにないタイプの表現になっている。まさかのラブシーンには驚いてしまった。
主役の豊川悦司は一徹な男を見事に演じきり、寡黙で耐える押さえた演技はとても魅力的。また、岸辺一徳の憎々しい人物ほか、他の俳優さんたちも役をしっかりと自分のものにしていた気がする。特に吉川晃司の演技、殺陣ともに素晴らしかったです。アイドル歌手の面影は完全に払拭しました。原作を読んでいないので解らないが、三左ェ門(豊川)が愛妾・連子を殺すまでの心情がもう少し丹念に描かれても・・・とちょと思ったわたし。冷静に状況をしっかり把握出来る主人公が、覚悟を決めてしたことの説明がもう少しほしいのは欲張りでしょうか?
必死剣鳥刺しの秘技はどうぞ劇場に足をはこび、その目で確かめてください。個人的には藤沢作品はすべて好きだが、この作品は一番好みかも・・・。