2017.11.21
今日の作品は1981年公開のアメリカ映画“グロリア”。いまから36年前この作品を観たときの感動はいまもそのまま残っている。全然タイプではない女優さんを、一気に好きになった瞬間である。主人公に惚れたのか、それとも女優さんになのかは当時のことなので解りません。今回再びスクリーンで観、その両方とひととしての魅力に惹かれたことを実感しました。グロリア(ジーナ・ローランズ/当時50歳)は中年女性で、どっから観てもケバくちょっと近寄りがたいオーラを発している。目を合わせたらら「何観てんだよ!!」っていきなり言われそうである。もっとも苦手なタイプである。当時の自分から観たら年上の遠い存在。でも、その時はじめて年上の女性のカッコ良い強さをみせられ、こころをわしづかみされました。
“午前十時の映画祭”の今年のラインナップの中で、一番観たかった洋画が“グロリア”で邦画が“泥の河”。2作品ともわたしの中の大好きな作品です。ちなみに余談ですが、黒沢明監督が選んだ映画作品100の中に“グロリア”が入っているそうです。ちょっと嬉しいっていうか、自己満足です。
作品は冒頭のタイトルロール(子どもか描いたような水彩画)をバックに、フラメンコとジャズを合わせたような哀愁漂う音楽ではじまり、これだけでスクリーンに引きずり込まれます。音楽の使い方が絶妙で、感情の波をしたたかに演出し物語の印象を深めています。乾いたニューヨークの街の風景がこれから起きる、逃亡劇を暗示させる見事な演出を改めて実感しました。監督はジョン・カサヴェテス。グロリアを演じたジーナ・ローランズの紛れもない夫で、インデペンデント映画(自主制作)のジャンルを確立したひと。その評価は高く根強いファンが多い。ローランズを使っての作品は9作品にものぼり、妻としてだけでなく最高のパートナーだったようである。
ローランズの格好良さは、観れば納得なのだがこの役作りに彼女はニューヨークの街中でも舐められない女をカメラが回っていない時でさえ徹底したそうである。歩き方を考え、立ち居振る舞いすべてグロリアになりきった彼女だからこそ、素晴らしい作品になったのでしょう。
今回改めて観て細かい演出の素晴らしさに感動しました。演技だけでなく細かいディテールの演出、特に街の空気感や音そんなものが緊張感を高めていく創りになっていてまるでニュ―ヨークにいるような感覚を覚えます。タクシーや地下鉄が上手に使われ、ひととの関わりが見事に描かれラストの絆に落とし込まれ涙します。タクシードライバーがみな良い味をだし、グロリアを助けます。みなわたしたちと同じように、グロリアの格好良さに引かれてのように思え嬉しくなります。家族を失い絶望の淵にいる少年フィルとの逃亡劇は、ハラハラドキドキの連続ですが、二人の会話のユーモラスなやりとりはつかの間の安らぎさえ与える巧みな演出。グロリアは冒頭、“わたしは子どもが大っ嫌い!とくにあんたの!!”と嘯く、子どものフィルは小生意気でグロリアをブタ呼ばわりする。こんな二人がかけがえのない絆で結ばれるラストは、涙なくして観られません。劇中にフィルが、「気が強い女だね!」といい、あとで「タフな女」と変わるところはこの作品のすべてと言えるでしょう。
余談ですが、わたしはケバい女性が苦手と先ほど言いましたがもっと苦手なのが煙草を吸うひと。グロリアはどっちの全面に出たキャラですが、何故か彼女だけは嫌いになれません。あまり思ったこともないのですが、彼女ほど煙草を燻らす姿が絵になりカッコいい女はいないかも知れません。“グロリア”最高です。
P.S. リュック・ベンソン監督の大ヒット作“レオン”の原型とも言われているのが“グロリア”です。1999年にシャロン・ストーン主演でリメイクされた今作ですが、残念ながらはっきり言って問題になりません。